復刻版を出版するにあたって
まず、山崎貞 著 『新々英文解釈研究』とはどのような本であったかを紹介する。そして、私が何故この本を復刻したのかを述べる。
『新々英文解釈研究』は、我が国の受験参考書である。これは大正元年(1912年)に『英文解釈研究』として出版された。そのあと、著者の山崎貞氏が手を加え、大正5年に『新英文解釈研究』を出版された。その後、さらに手を加えられ大正14年2月に『新々英文解釈研究』として発刊された。以後、約70年間に渡り大きな改訂はなされていなかった。この時にこの参考書としての形は整ったものと考える。言い換えれば、この時に英文解釈法のメソッドが固まったのである。
何故か。『新々英文解釈研究』は2000年のころまで、英文解釈の受験参考書としてほぼ最高峰の位置にあった。厳密には1994年の第9訂の増刷が最後の印刷となった(2008年に有志の懇願により復刻版が発刊された)。このような盛衰を経たが、この期間多くの若い受験生の英語力を涵養したのである。故に、この事実を以って英文解釈法のメソッドが固まったと言えるのではないだろうか。
さて、『新々英文解釈研究』は現在では受験生に読まれなくなったが、これは英語が変わったからでもなく、英文解釈のより良い参考書が出たからではない。受験英語が変わったのである。画期的だったのは、1979年の共通一次施行(ちなみに小生はこの時、現役で受験した。いわば一期生である)。この時以来、時とともに選択肢問題が受験の主流となっていった。そして英語の試験の主流は、英文解釈(日本語訳)から、大量の英文を読み内容を選択肢から選択するものが主流となった。つまり入試英文の長文化と総合問題化が促進されたのである。それに加えて、ヒアリング重視の傾向が強まっていった。2020年の共通テストからは英語の試験の点数の半分がヒアリングである。また、一方で、学習指導要領による政策誘導によって、高校で学習する語彙が削減され続けた。
1950年代には上限6800語だったが、1978年告示の指導要領では上限2950語にまで減らされたのである。
山崎貞の『新々英文解釈研究』が出版された時代背景を考えてみよう。日本は明治開国の間もない頃で、怒涛の如く西洋の文物が我が国に流れ込んできた。我が国は西欧列強に対抗して国の独立を保つために、これらを早急に取り入れ自家薬籠のものとする必要があった。そのためには当時の西欧の専門書から詩、小説に至るまでを正確に読み込む必要があったのである。これらの書物は非常に難解であったし、これらを読むことが出来る人材を育成することが英語教育の主目的であった。そのためにはいわば「暗号」のように複雑で難解な英文を「公式」と呼ばれる慣用語句・構文パターンに分類、読み解き、和訳しなくてはならない。それに最も叶ったのが『新々英文解釈研究』であったのである。それからおよそ100年。時代も変わり、先に述べたように入試英語も変わった。そして入試傾向が変わり2000年以降は受験生が勉強するものではなくなったのである。
しかし・・である。日本の英語の入試傾向は変わったが、英語は変わったのだろうか。英語の文物に対する人々の要求は変わったのであろうか。『新々英文解釈研究』によく出てくるような「暗号のように複雑で難解な英文」はもはや世界では使われていないのだろうか。残念ながらそのようなことはないのである。国際間の条約、あるいは、企業の契約文章などには、たくさん使われている。また、紛争が生じたら条約文や契約文に基づき解決し、紛争相手と協議談判しなくてはならない。「明治期の暗号のように複雑で難解な英文」を正確に解釈することは、国や企業にとっても死活問題となっているのである。これこそが「勝負」なのである。
一昔前、というか、私の記憶と印象では1980年ころまで国家間の条約などは相手国の言語と日本語の双方で書かれて締結されていた。締結時にこの双方の条文を仔細に両国で検討していた。そして今後、何らかの紛争があり、また、それぞれの言語で解釈の違いがあったら、その時、その時で協議する、というのが一般的なスタイルであった。
現在、多国間での条約も多くなってきたせいもあろうが、英語のみで条約文が書かれていることも多くなっている。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)がその例である。日本語でも書くようにこちらからも強く提案すべきと思うが、そうはしないし、ならないようだ。また、企業間の契約もこれと同様に英語で交わすことも多くなっているようだ。
また、どの学問的な分野に進むにしても、英語の論文を読むことは必須である。どの分野に進んでも英語で書かれた専門書を正確に読むことが要求される。但し専門書の英語のレベルは『新々英文解釈研究』より難しくはない。しかし、それは『新々英文解釈研究』クラスの本で勉強して初めて専門書を読むことが可能になるのである。このようなことを考えると、英文解釈、正確に英文法に則って英語を日本語に訳する「訳読」ということは、非常に重要であると思う。
故に、今述べた条約や契約などの実務、及び専門書の読解に対応する英文解釈力を身につけるには私としてはこの『新々英文解釈研究』を勉強することをお勧めしたい。とにかくこの参考書が優れていることは大正時代から2000年まで英文解釈のメジャーな参考書であったという歴史と実績が証明している。それ故に私は復刻版の出版に踏み切ったのである。
ただ、この本の欠点。難しい。私も勉強してきたし、今も勉強しているがなかなかタフである。しかし、この難しさこそが、則ち、英語の難しさではないだろうか。
具体的に何が難しいのか。この『英文解釈研究』の文章。ただ読んでも分からない。初見では分からない。故に、問題文と解答を見比べながら、英文がどのように繋がっているかを考えるしかない。もちろん、辞書も鬼のように引きまくらなければならない。とにかく根気が要るのである。それも勉強というものには必要なのかもしれない。しかし、私の経験からそれではあまりにも大変すぎるのである。
私はこの難しさを少しでも緩和するために2つの方法を考案した。
一つは「現代英文訓読法」であり、もう一つは完全理解を目指す「やわらなか暗記」である。を用いて、皆様が英語をとにかく容易く理解できるようにした。それは私のブログを参照して欲しい(速修 新々英文解釈研究 。
同じ努力するのなら、なぜこのような訳になるのか理解をしたのちに、必要なことを更に深めたり、単語の意味をより深く探ったり、かつ、英文を理解するためにある程度、暗記することに時間を使うのが良いのではないだろうか。その方が勉強としては楽しいと思う。そうしてこのようなことを繰り返していけば、確実に英語力を増していくことができると思うのである。
さて、どのように英語を勉強したら、仲間に、勤め先に、そして、世間に、自分の英語の力を認めさせられるのか、ということに皆様はいささかの関心をお持ちだと思う。
どうすれば良いのか。思い浮かぶのは、何か英語の資格を取る。しかし自分の経験ではなかなか上手くはいかないものである。なかなか思うような点数や級を取れないものである。しかし、がっかりすることはないと思う。私に言わせれば、このような英語の「資格」など必ずしも必要はないのである。この本をきっちり勉強して、この本をきちんと勉強したよ、と言ってお見せすれば、友人であれ、先輩であれ、上司であれ、あるいは、面接官であれ、皆、心底感服するであろう。なぜなら、彼らの中でこの英文を読んですぐに理解できる人がいるだろうか。そうは多くはいないはずである。それ程、本格的な難しさがあるのである。自分の出来ないことを出来る人間を人は感服し尊敬するものである。
また、新々英文解釈研究クラスの英文を読むことの出来ることこそが本当の英語力であり、これこそが本当の教養であるだろうな、ということを皆、心のどこかで思っているからである。この本、人にそのように思わせる「迫力」というものがあると思う。
英語の勉強法にはたくさんのやり方がある。それを私は否定はしない。皆様は自分の心に叶うようにおやりになったら良いと思う。ただ、このブログを読んで『新々英文解釈研究』を使って英語を勉強してみるのも一つの勉強法かと検討していただけたら、復刻し、かつ、この書の理解を手助けをするブログを記述している者としては幸甚である。
令和2年2月11日 橋本英樹
著作権について
書籍の著作権は、著者の没後70年で消滅する。著者の山崎貞氏は1930年に亡くなられているのでこの「新々英文解釈研究」の著作権は消滅しているのである。
復刻版をPDFで販売しています。詳しくはこちら矢印
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